失語症コラム② 失語症-理解のリハビリ,聴く&読むを言語聴覚士が解説
失語症コラム①では、失語症の概要について見てきました。当コラムは全4回のコラムで解説しています。
今回は「理解のリハビリ,聴く&読む」について、詳しく解説をしていきます。
はじめに
私たちが実際にコミュニケーションをとるときは
・発言を理解する
・言葉を発する
この2つが必要です。コラム②では発言の理解を深めるために
・言葉を理解する過程
・リハビリのやり方
を解説していきます。また失語症の患者様がみえるご家族の方向けに、会話のコツも紹介していきます。
理解のメカニズム
私たちは相手の言葉を理解する際に
・音の処理
・意味の処理
・文の理解
このような3つの段階で理解をしています。
ここでは「時計」について、どのように音の処理をしていくのかをみていきましょう。
音の処理
音の処理は以下の3ステップで行われます。
①「とけい」と聞こえる
②音を「と」「け」「い」と知覚する
③「とけい」は時計であると理解する
「時計」の発音は、「と」「け」「い」という音が、この順番で並ぶことで「とけい」と発することができるのです。
健康な人
この過程は無意識に行っています。
失語症の人
音の処理が適切にできないため、聞いた言葉をうまく認識できません。「音は聞こえたけど、何と言っているのかわからない…」という現象が起きてしまうのです。
意味の処理
次に、健康な人が「時計」をどのように意味の処理をするのかをみていきましょう。
健康な人
おおよそ以下のステップで言葉の意味を理解します。
①「時計」は針が2本あって
1〜12の数字が書いてあると想像する
②”時間を知るもの”だと理解する
③自分の中の”時間を知るもの”と
「時計」という言葉が一致する
失語症の人
単語の意味がわからない為、「時計」と”時間を知るもの”がうまく繋がらないことがあります。
文の理解
最後に、文の理解をどのようにしているのかをみていきましょう。
ここでは『カレーが食べたい』と言われたときを例に、健康な人と失語症の人とではどのような違いがあるのかを見ていきます。
健康な人
おおよそ以下の流れで『カレーが食べたい』を理解します。
①『カレー』は
人参や玉ねぎなどが入った
「スパイシーな食べ物」
だと理解する
②『食べたい』は
「食べる」+「〜したい」
だと理解する
③『「カレー」が「食べたい」』なので、
「スパイシーな食べ物を食べたい」
だと理解する
失語症の人
文法や意図を理解できないため、文の理解が難しいです。単語の意味が理解できても、単語の繋がりが理解できないのです。
『カレーが食べたい』
「カレー?食べたい?」というように、単語の意味が理解できても、単語の繋がりが理解できないのです。
具体的なリハビリ方法
理解面の機能が低下しているときの具体的なリハビリ方法について解説していきます。
・音の理解
・意味の理解
・文の理解
大きくこの3つに分けて説明していきます。
音の理解
音の区別をする練習をしていきます。
「イス」
と問題を提示した後に
・椅子
・茄子
これらの絵を見て、正しい絵を選ぶ
などの練習をしていきます。
意味の理解
単語とそれを意味するものの結びつきを強くする練習をします。
具体的には、単語の意味を理解する練習をしていきます。
「時計」
と問題を提示した後に絵カードを4〜6枚並べて、その中から正解を選んでもらう
などの練習をしていきます。
文の理解
文の理解をするための練習をしていきます。
具体的には、
①言葉が正しい文の日本語配列かどうか
②正しく助詞を使うことができているか
このようなことをチェックしながら、苦手なことを改善する練習をします。
例えば、①の場合
「たこ焼きに食べる」
と問題を提示した後に、日本語として正しいかを○か×かで答えてもらう
などの練習があります。
実際のリハビリでは、もっと細かく”なぜ理解ができないのか”をもっと掘り下げて練習をしていきますが、大まかにいうとこのようなことを行っています♪
ご家族の方へ,接し方
当コラムをお読みいただく方は、失語症の患者様のご家族の方も多いと思います。ここでは、失語症の方との会話のポイントを紹介します。
ストレスを軽減する会話のポイント
失語症の方と接する時には、
①ゆっくり話す
②実物を提示する
③Yes/Noで答えられる質問
④短く話す
以上4点を心がけて会話をしてみましょう。
たとえば、
『イチゴとミカンどっちが食べたい?』
①ゆっくり話す
健康な人なら簡単に思える質問でも、失語症の人は理解が難しいことが多いです。簡単な文章であっても、ゆっくり話すようにします。
②現物を提示する
視覚的な補助があると、会話がスムーズに進みやすくなります。実物があれば見ながら話すことで、かなり理解の手助けになります。
③Yes/Noで答えられる質問
YesかNoで答えられるように質問をすると、混乱が少なくなります。
④短く話す
またなるべく短い文章にすることで、理解面の手助けができます。
現物を見せながら、『イチゴ食べる?』『ミカン食べる?』などYesかNoで答えられる短い質問をすると、混乱が少なくなりストレスを減らすことができます。
ここでご紹介したことを意識しながらコミュニケーションをしてみてください♪
次回以降は症状別のリハビリ
リハビリの具体的な内容
次回以降はリハビリの具体的な手法を紹介します。内容は以下の通りです。
コラムを通して、失語症についてわかりやすくご紹介していきます。
正しい情報を知り、より豊かなコミュニケーションを目指しましょう!
まとめ
健康な人であれば容易に理解できる、言葉や文章も、失語症の方には難しい場合が多くあります。また失語症にはさまざまな症状があるため、症状に合わせた接し方・リハビリが大切です。
リハビリでは、傷ついてしまった脳で同じ作業を繰り返し行うため、心が折れてしまうこともあります。ご家族など周りの方が症状を理解し、協力しながら機能回復を目指すことがとても大切です。当コラムで紹介したリハビリ法を参考にしてみてくださいね。
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著者
*参考文献・書籍
1)平野哲雄,長谷川健一,et
al.”言語聴覚療法臨床マニュアル改定第3版”協同医書出版社(2014):180-236.
2)地域ST連絡会,失語症パートナー養成部会.”失語症と話そう
失語症の理解と豊かなコミュニケーションのために”中央法規出版株式会社(2004):2-199.
3)小嶋知幸.”失語症の源流を訪ねて-言語聴覚士のカルテから-”金原出版株式会社(2014):54-137.
4)小島知幸.”なるほど!失語症の評価と治療検査結果の解釈から訓練法の立案まで”金原出版株式会社(2010):2-95.
5)石合純夫. "言語の神経ネットワーク論と失語症の臨床経過." 言語聴覚研究 16.1(2019): 9-19.
6)藤田郁代. "失語症の言語治療の新しい潮流:理論と戦略."言語聴覚研究 16.2(2019): 61-73.
7)中村光. "認知神経心理学的枠組みに基づく失語症臨床の理論と実際."言語聴覚研究 16.2 (2019): 74-80.
8)大槻美佳. "失語症." 高次脳機能研究 (旧 失語症研究) 29.2 (2009): 194-205.