失語症コラム④失語症-書くリハビリ,変な言葉を書いちゃう!錯書
失語症ラム①では、失語症の種類や症状などについてご紹介しました。当コラムは全4回で解説しています。目次はこちらです。
・コラム①失語症って何?
・コラム②理解のリハビリ,聴く&読む
・コラム③話すリハビリ,喚語困難,錯語
・コラム④書くリハビリ,変な言葉を書いちゃう!錯書
今回は「書くリハビリ」について紹介します。失語症の方の中には、書字面の機能が低下している場合あります。書字面とは、書こうとしても語や文字が思い浮かばない状態です。
これは書く時のメカニズムで困難が生じてしまうからです。書く過程の特徴と具体的なリハビリを把握していきましょう。
書く仕組み・失語症の特徴
私たちは、4つの段階を通して言葉を書いています。
①「伝えたい内容」を思い浮かべる
②「伝えたい内容」に合った単語を選ぶ
③選んだ単語の音を並べる
④選んだ単語を書く
この4つの過程は、健康な人であれば意識なく行っています。しかし失語症の人には難しいことがあり、思い浮かべたことを正しく書けない場合も多いのです。
ここで「時計」と書きたいときを例に、健康な人と失語症の人とではどのような違いがあるかを見ていきます。
①「伝えたい内容」を思い浮かべる
健康な人
「時計」のイメージを思い浮かべることができる
失語症の人
「時計」のイメージを思い浮かべることがおおよそできる
失語症の人は、健康な人と同様に伝えたい内容をイメージできます。
②「伝えたい内容」に合った単語を選ぶ
健康な人
イメージに対して「時計」という単語の漢字や仮名を無意識に選べる
失語症の人
イメージに対して漢字や仮名を選べない。間違えた漢字や仮名になる
実後生の人は「どんな漢字だったかな?」このように、イメージに合った単語・漢字を選ぶことができません。時には、時計と書きたいのに違う文字や変な文字を書いてしまうのです。
③選んだ単語の音を並べる
健康な人
イメージに対して“時計・とけい”と何も意識せず正しく変換できる
失語症の人
イメージした内容を漢字・仮名にできない。音の並びを間違える
失語症の人は。イメージした内容に対して「と…け?い?といけ?ん?(あれ?順番なんだっけ?)」このように、文字の順番を並べることが難しくなります。また「とけい」と書きたいのに「けとい」と書いてしまうこともあります。
④選んだ単語を書く
健康な人
「時計・とけい」と分かれば、すぐに書ける
失語症の人
イメージした単語を正しく書けない。書き出せない
失語症の人は「“とけい”って書きたいのに、あれ、えーっと…(書けない)」このような状態から、文字を書くことができません。「watch」と書きたい時に「…スペルは何んだっけ?」となる状態に近いかもしれません。
具体的なリハビリ方法
失語症によって書字面の機能が低下しているときには、書く時の過程にアプローチをして症状の改善を目指していきます。ここではリハビリの一例を具体的に見ていきましょう。
言葉を選びやすくする
「伝えたい内容」に合った単語(漢字・仮名)を選べない時には、単語と単語が意味するものの結びつきを強くする訓練をします。具体的には、カテゴリーを整理して言葉を選びやすくしていきます。
例えば、
“仲間はハズレを選んでください”
「犬・虎・太鼓 」
これらの絵や言葉を提示して、仲間はずれを選びます。
このような訓練を重ねることで、単語とその単語が意味するものの結びつきが強くなりイメージにあった単語を選べるようになっていきます。
語を正しく並べる
「伝えたい内容」に合った単語(漢字・仮名)を正しく並べられない時には、文字を正しく並べる練習を行います。
例えば、
「イス」と問題を提示した後に
「い」「な」「す」
この中から「イス」に必要な文字を選んで、正しく並べて書く
このような音を処理する訓練を行うことで、正しく変換する経験を増やしていきます。
書くトレーニングを増やす
選んだ単語が書けない場合、絵カードや写真、実物からモノの名前を書く練習をしていきます。例えば「鉛筆」を見せて、名前を書いてもらうなどです。
なかなか書き出せない場合には「“え”から始まります」「紙に文字を書くときに使います」など、ヒントを出して、書き出しやすい環境を作ります。
ご家族の方へ,接し方
身近な人が失語症になった場合には「どのように接するのがいいのか…」と接し方に悩みを持つ方も多いです。書こうとしても語や文字が浮かばない様子がある時には、
・見本を書く
・ヒントを出す
・急かさない
を心がけてください。
署名など本人が書く必要がある場合には、見本を用意するといいでしょう。思い浮かばない語や文字を確認しながら模写できるので書きやすくなります。真似して書くことで間違いを減らすこともできます。
そして書けない様子が続くようなら、手で文字を書く“空書”や、紙に頭文字だけ書くなどのヒントを出すのも有効です。ヒントをだすような接し方を心がけてください。
まとめ
今回は、書くメカニズムに沿って、書字面の機能が低下する原因とそのリハビリ方法を見てきました。
実際のリハビリでは、言葉を書けない原因をより細かく掘り下げていきますが、今回ご紹介した内容も意識するだけでコミュニケーションが随分しやすくなります。 ぜひ参考にしてみてください。
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著者
*参考文献・書籍
・竹内京子.”楽しい音声学”株式会社くろしお出版(2019):12.
・”言語聴覚療法臨床マニュアル改定第3版”協同医書出版社(2014):180-236.
・小嶋知幸.”失語症の源流を訪ねて-言語聴覚士のカルテから-”金原出版株式会社(2014):54-137.
・小島知幸.”なるほど!失語症の評価と治療
・検査結果の解釈から訓練法の立案まで”金原出版株式会社(2010):2-95.
・大槻美佳. "失語症." 高次脳機能研究 (旧 失語症研究) 29.2 (2009): 194-205.