ウェルニッケ失語症の原因とリハビリの基礎①言語聴覚士監修
みなさんはじめまして!国家資格‐言語聴覚士の林です。
私はこれまで、総合病院や吃音改善機関で患者さんへのリハビリを8年行っていました。
現在は、言語聴覚士養成校の講師、滑舌や吃音(どもり)にお悩みの方に改善レッスンを行っています。
今回のテーマは
「ウェッケル失語症」
です!
ウエルニッケ失語症とは
概要
ウェルニッケ失語は、脳の損傷によって起きる流暢な失語症です。基本的なコミュニケーション能力は保たれることが多いものの、聴覚的な言葉の理解がとても困難になります。
簡単な質問にも正しく答えることができなかったり、指示を理解することが困難であったりします。そのため、この人は認知症や精神障害ではないか、と誤解されることがあります。
ウェルニッケ失語は、流暢性失語とも呼ばれ、以下のような特徴があります。
発話
・流暢で多弁である
・言い間違えが多い
・言いたい言葉がみつからない喚語困難を伴う
・発話量の割に情報の少ない空虚な発話
聴覚的理解
・顕著に障害されており、単語レベルで理解が困難。
復唱
・聴覚的理解の障害を原因として、復唱も困難。
読み
・障害されている。聴覚的理解よりもやや良好な例もある。
書き
・個々の文字を書くことはできても、理解不能な状態。もしくは書字不能。
症例
具体的な症例については下記の動画を参照ください。
ウェルニッケ失語,問題
聴覚的理解の障害
ウェルニッケ失語の中核症状は、聴覚的理解の障害であると言われています。正常な人の単語の聴覚的理解は、以下のような過程で進みます。
1.音が耳から入る
2.音素を認知する
3.脳の中にある単語へアクセスする
4.意味を理解する
一方でウェルニッケ失語は、どの過程で障害されているのでしょうか。
多くの場合は、
2の「音素を認知する」
がうまくいかに障害になります。ちょっとわかりにくいですね。まずは“音素”という言葉について説明しましょう。
音素分解が困難
音素とは言語学で用いられる用語です。簡単に言うと、語の意味を区別する情報を言います。
例えば
「鷹(たか)」と「坂(さか)」の場合
単語をひらがなで書くと「たか」と「さか」となります。この2つの単語は「た」と「さ」の違いによって区別されています。
「た」と「さ」の音をさらに細く分解すると、/ta/と/sa/となります。これらの違いは子音の[t]と[s]です。つまり、「鷹」と「坂」の語の意味を区別する、[t]と [s] の音こそが、”音素”であると言えます。
ウェルニッケ失語の人は、音素分析が困難なので、会話の中でも「鷹 /taka/」と「坂 /saka/」の区別ができない状態になっています。
空虚な発話
ウェルニッケ失語の人が話す言葉は、非常に聞き取りやすいことも特徴的です。話す文章も長く、話し方の抑揚や速度、リズムを含むプロソディもほとんど正常です。
そのため「遠くから聞くと正常な発話に聞こえる」と表現されることがあります。しかし、実際に話している内容は、質問や会話に合っていなかったり、錯語と呼ばれる単語や音の言い誤りが多かったりします。
このように、発話量は多いにもかかわらず、情報量は非常に少ない状態のことを、「empty speech: 空虚な発話」と呼びます。簡単な会話さえうまく成り立たないこともあります。
しかし本人は病気についてあまり意識していない場合も多いのです。周囲の人は意味が分からなくても一々指摘せず、会話しているように接することも、良好なコミュニケーションのためには大切です。
ウェッケル失語の原因・生じる過程
失語症を起こす6つの疾患
ウエルニッケ失語症は脳の損傷によって起こることがあります。代表的な6つの疾患を挙げます。
・脳血管障害:脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など
・脳外傷:事故などによる
・変形疾患:アルツハイマー、ピック病など
・感染症:ヘルペス脳炎など
・一酸化炭素中毒
・脳腫瘍
この中でウェルニッケ失語を生じさせることが最も多いのは「脳血管障害」です。
失語が生じる過程
ウェルニッケ失語の障害が生じる過程は下記のようになります。
1.脳梗塞などが起きる
2.内頸動脈から連なる中大脳動脈領域が損傷する
3.中大脳動脈に支配される、左MCA領域に栄養が行き渡らなくなる
4.3の影響によりウェルニッケ失語の病巣が損傷する
そして、ウェルニッケ失語が生じます。
病巣はどこか?
どの失語症も、何らかの原因によって脳が損傷している場合に起きるということを述べました。さらに、失語症では「限局性の大脳病変により障害される」必要があるため、正確にはCTやMRIによって、どこが病巣なのかを確認しなくてはいけません。
ウェルニッケ領域とは?
ウェルニッケ失語は、ウェルニッケ領域を含む場所の損傷によって生じます。ウェルニッケ領域は、側頭葉の上側頭回・後部という場所にあり、聴覚野を囲むように位置しています。
聴覚野とは、耳から脳に届けられた音を知覚する部分です。ウェルニッケ領域が聴覚野と隣接しているために、ウェルニッケ失語の人は聴覚的理解の障害が著しくなります。
後頭葉に近いほど,読みが困難
実際のウェルニッケ失語は、中側頭葉や後頭葉下部など、ウェルニッケ領域だけではなくその周辺をより広く損傷している例も多く見られます。
ウェルニッケ領域は後頭葉と呼ばれる脳の後にも隣接しています。この後頭葉には視覚をつかさどる“視覚野”があるため、病巣が脳の後方へ移ると、視覚を使う読みや書字などの障害が強く現れます。
まとめとお知らせ
まとめ
ウェルニッケ失語の方は、身体の麻痺も無いか軽度で、発話も流暢で多弁です。そのため、周囲の人は正常の人に話しかけるのと同じように会話しようとする場合があります。
しかし、いざ会話をしてみると上手く伝わらない、本人の言っている内容も言い誤りが多くよく分からない、という状態になりがちです。
誤解をしてしまうことを避けるためには、ウェルニッケ失語の詳しい症状と問題についてよく知っておくことが必要です。次回はさらに詳しい症状と対処法について紹介していきます。
お知らせ
ここで少しだけお知らせをさせてください。私林は言語聴覚士として、声にお悩みの方の個人レッスンを行っています。
・ウエルニッケ失語の知識を知りたい
・トレーニング法を知りたい
・理解できない場合の対処法を知りたい
などのお悩みがある方は良かったら私のレッスンを受けてみませんか?個人にあったとレーニングをしっかり提案させて頂きます。
詳しくは下記のお知らせの看板をクリックください(^^)ぜひお待ちしています。
著者
*出典・参考文献
・失語症言語治療の基礎, 紺野加奈江, 2001
・高次脳機能障害学, 石合純生, 2003
・リープマン神経解剖学 第3版, S. David Gertz, 2008